ヨウ素デンプン反応
私の名前はボッキングである。
これは高校の友達の親父が登録していたエロサイトの名前である。
ボッキングは大学生である。
あと一ヶ月間、5万で暮らさなければいけない。平々凡々とした大学生。
学生にとって一番の山。就活を経験している。
腐った社会に中指を立てつつ、会社探しをしている。そんな反骨心を込めて、ハンドルネームをボッキングにしている。
ボッキングの周りには少なからず就活モンスターなるものが存在する。あいつらは大学の友達だと思っていたが、"友達"だったのかも知れない。
よっしゃ!インターン通った!
よっしゃ!ES通った!
リク面!
私立の奴らアホすぎ。。
おれ人事と仲良くてさぁ。。
あーじゃあお前のこと紹介しといてやるよ!
非通知かかってきたぁ!
聞くに耐えない。頑張ってくれという感じだ。
就活に不安を抱くボッキングにそれは効く。
やめておけ。
効く。
話は変わる。
ボッキングは体育会の大学生だ。
当然日焼けした汚い顔から汗を散らしながら、黒い安物の3.4万のぴちぴちのスーツを着て、大阪の淀屋橋を歩く。
何故か臭い。おれの脇?いやいや、それはない。あれだけ固形牛乳石で洗って、スプレーもしてきた。そだねー。
前を歩く就活生達か。
否違う。
川か。
いいな、お前は。悠長に流れてるだけで。臭くても誰からも批判されない。ブレないよなお前。小学生の頃、ずっと足が臭くても上履き買い換えなかった藤本みたいだな。
川といって思い出すことがある。小さい頃地元の川に落ちたことがある。汚く淀んだその川で遊んだわたしは水虫になった。小学生で水虫と診断されることはなかなかないだろう。
わたしの留学していた国の川も比較的大きく、ゆっくりと流れていた。
当然臭く、汚い。 世界中、川は汚く、臭いのだ。腐ってやがる。
留学中に足に怪我をしたまま、川に入った。ボッキングには学習能力がない。
結果は察しの通りだ。僕の足の小指は親指と化した。ありがたいことだ。
これからは同じ轍を踏むものか。ボッキングはもう23歳なのだ。
話を戻す。
前を歩く就活生はいい匂いのするJDだ。
端麗な彼女は黒いスーツに茶色いコートを羽織る。
心の中で、嘲笑した。
これが量産型就活生か。かわいそうだ。
セミナーが終わり、オフィスを出た時、企業の方から電話が着た。
「ボッキングさんとお話をしたいので、日程を、、、」
電話を終え、就活相談をする今年から社会人の友達にリクルーターついたーよかったーと話す自分が企業のビルのガラスに映った。
二度見をした。
ボッキングもその中の1人でしかなかった。
黒いスーツを着て、就活の状況を知り合いに相談する姿。
心の中のリトルボッキングがボッキングに「恥ずかしくないの?」と言った。
暖かいその日の空気と表現し難い感情がからまり合う。大学入試に失敗し浪人が決まった日、家でお昼寝をして、現役で東大に入った初恋の女の子の夢を見て、起きた時に、和室の桜の花弁が散る和紙でできた障子から透ける暖かい光を思い出した。
羞恥とノスタルジー。
青と赤を混ぜて、紫。いや、噛んだ米に、イソジンをかけたときの、黒に近い青紫色。そんな気分になった。
生き恥である。
青紫色の気持ちであるく淀屋橋はもろく見え、またボッキングを川に落とそうとしていた。
行きと帰りの光景は540度違ったものであった。
変わらないのは川の臭い香りだけだった。